1.なぜ、インプラントの記事や広告が多くなったのか

最近、雑誌やTV、あるいは歯医者さんで「インプラント」の記事や広告を目にすることが非常に多くなりました。どうしてなんでしょう。

まず一つは前の稿でお話ししたように近年になってインプラント治療の術式が確立したことが大きいと言えます。それまでは「インプラントをやりたいけど顎の骨が足りない」、或いは「歯周病がある」、「通常のレントゲンだけでは確実な診断が難しい」といった具合で症例によって対応がまちまちでした。

今では骨が足りなければ「再生医療で骨を造る」、歯周病があれば「歯周ポケットをなくしてメインテナンス」、診断にはCTを撮影し「骨の状態を3次元解析」というようになったのです。 こうした経緯があって術者である我々歯科医師、治療を受けられる患者さんの間に「これならインプラント治療は信頼できる」といった評価が得られるようになりました。

その後症例を重ねてインプラントに対して自信を持った歯科医師、インプラント治療を受けて満足した患者さんたちが徐々に増えるつれ、「インプラント」が日常生活に広く浸透してきたわけです。悪いものであれば当然普及しませんし、無理に推し進めれば社会的に非難されます。しかし、インプラント治療は現在そのような状況にはなっていませんので「社会に認知され市民権を得られそう」と考えて良いでしょう。そんな訳であちこちで「インプラント」という文字を目にするようになったのだと思います。しかし、一部では心ない歯科医師による粗悪な治療の実態があったり、インプラントに対する偏った内容の報道がされたりすることもあり残念なことです。

2.「インプラント治療は良い」って聞きますが本当にそうなんですか?

インプラント治療とは歯が失われた部分に人工的に歯を入れる治療法です。

インプラント以外の治療法で歯を入れるとすれば「入れ歯」と「ブリッジ」のどちらかになります。 それぞれを簡単に比較してみます。

インプラントimplant3.jpg

入れ歯023_26.jpg

 ブリッジ

023_19.jpg

適応症

顎の骨があればどこでも可

再生療法の併用が必要なこともあり

1本~総入れ歯

全てに適応可能

前後に丈夫な歯があることが必要

本数に限度がある

治療

期間

3ヶ月~1年

症例によって差がある

半月~1,2ヶ月

短期で完了

半月~1,2ヶ月

短期で完了

治療費

保険の適応外なので一般的に高額

(30万円~ )

保険適応(数千~2万円)

保険外(10~30万円)

保険適応(8千~数万円)

保険外(10万円~)

使用感

なじんでくれば自分の歯と同じ感覚

違和感なく何でも食べられ快適

個人差が大きいが異物感があり

痛い、咬めない、話せない等

苦労が絶えない

自分の歯と同じ感覚

違和感なく快適

お手

入れ

今までのように歯磨き、歯間ブラシ、フロス 特別なことは必要なし

取り外しをして食事後、就寝前など洗浄が必要

今までと同じ歯磨き

予後

インプラントでしっかり咬む力を支るので

自分の歯の負担が減り噛み合わせの

バランスが良くなる。インプラントは虫歯にならないが歯周病の危険はあるので定期的なチェックは必要。確実に施術された

インプラントは定期的にメインテナンスを続けていけば長期にわたり良好に使える

お口の中が安定している場合は入れ歯もなじんで長く使える。虫歯や

歯周病で支えている歯が悪くなったり、顎がやせてくると作り直しが必要。

どうしても最後は総入れ歯にほど近くなっていく。入れ歯が割れることも多い。

歯科医、患者さんとも息の長いお付き合い

歯のない部分を前後の歯で支えるので 負担が大きく歯周病や虫歯になりやすい。

また土台の歯が割れることがあり5~10年で失われることが多い。

特に神経のないブリッジ、咬む力が強い人

歯周病の人はその傾向が顕著に現れる

適応出来るか出来ないかの判断が重要

総合

評価

治療費が高額、期間がかかることを差し引いても使用感と予後の点で他の2方法より明らかに優れている

ただし誰にでも適応出来る訳ではなく

きちんとした自己管理、定期検診が長期安定の必須の条件になる

適応を問わず短期で手軽に出来ることが最大の利点。しかし機能性快適性の点では

他の2方法に比べかなり劣ってしまう。

どうにもならないケースも多く、個人々での評価の差が大きい。しかし、少ない

本数であればブリッジより入れ歯の方が無理なく出来ることがある

安価で手軽に出来るが、前後の自分の歯を削ることで致命的なトラブルに発展することが多い。条件が極めて良ければ長持ちすることもあるが、残念ながら将来の入れ歯につながる「始め一歩」になることが多いように感じる

こうして見てみると「入れ歯」と「ブリッジ」で比較する限りではインプラントはより優れた治療法といえるでしょう。

ただ実際の治療においては個々の患者さん状態、例えば年齢、現在そして将来のお口の中の変化の見通しなどを考慮しますのでインプラントが全て良いとは限りません。 「ここは入れ歯の方が良いだろう」とか、「これならブリッジにしても問題ない」ということはたくさんあります。

だだし、3つどれでも選択できる場合で、いろんな意味で負担可能であればインプラント治療を選ぶことをお勧めします。

なぜかというと、やはり「入れ歯」や「ブリッジ」より圧倒的に満足度が高いからです。インプラントを行ったことで、噛み合わせなどお口の中全体のバランスが飛躍的に改善します。その結果良く咬め、踏ん張りが効くようになって多くの方は健康に自信が持てるようになります。残念ながら「入れ歯」や「ブリッジ」では限界があり、とてもここまでは期待できないようです。